PASSION

わたしだけにみえる世界

16歳で一人暮らし、夜中にうきうきコンビニへ。危険はすぐそばにあった。

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はじめてのひとりぐらし。

はじめてのじぶんだけのへや。

はじめての街。

はじめて歩く道。

しらないひとばかり。

はじめての感触。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は0時をすぎていた。

むしょうに肉肉しいものを口にしたかった。

 

脂ぎったジューシーな肉の塊がほしい。そう、口がベタベタになるような。

 

 

ほんのすこしだけの欲望のみがわたしを突き動かした。

 

しょうじき、すこし迷った。

 

 

 

 

時計の針の音が遠くなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませーごゆっくりどうぞー」

低めのおとなのこえ。

 

あれ?知り合いだっけ。

どこかで聴き覚えのある声だった。

 

わたしは、ちいさな箱のなかを隅々まで物色したあと、やっとたどりついた。

 

夜中にここまでノコノコと歩いてきた意味でもある

本命のばしょへ。

 

 

 

 

これこれ、わたしが欲していたものは。

 

 

 

しばらくジッと目の前をにらみつけた。

 

選定しているのだ。

このなかから今日えらばれるのはたったひとりだけ。

 

 

わたし自身が、誰のものさしでもない自分だけのものさしできめてもいい、唯一おこられないものがこれなのだろう。

 

「ぜんぶください」と心のなかのわたしがその場を演出してくれる。

まあ、そんなお金のない人間だからこそできる、心の中での贅沢だ。

 

 

そんなばかを繰り広げているうちにさっきまであんなにやわらかかった視線がじょじょに鋭くなっていく。

 

「はやくしろとでもいうように」

 

こちらはぜんぶ理解している。

でもしたがうことはしない。

 

ここでこそ、自分のプライドを守り抜く、有効的なしらんぷりを発揮できるのだ。だれだっていちどや2度かましたくなるものなのかもしれない。

 

 

わたしは正々堂々たたかうことにした。

 

 

 

あちらはただの女だとおもっているのであろう。

油断している。

 

ちぇるちぇるビームが届く瞬間がそこにあった。

 

3年後どこかに書き綴るためだけに、いま目に焼き付けておく。

 

 

 

やみくもにつかってはいけないという約束はなかった。

沖縄特有の必殺技をつかったわたしはあっけなくその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

雨の日だというのにまるで身軽だ。

 

長靴ではなくクロックスを履きこなしている。

足元まで守り抜くことはしないのだ。

 

 

 

あの狭く窮屈な箱のなかから抜けだしたわたしは、これからどこへ向かうというのだろう。

 

まだ慣れない街。

めまぐるしく景色だけが通り過ぎていく。

わたしだけがぽつんとひとり浮いたように。

 

 

これからどんな物語が待ちうけているのだろう。

 

いったいこの街でなにを得てなにを探し求めるのだろう。

 

なにを掴めばきがすむのか。

それがわからなかった。

とにかく今を急ぎたかった。

 

 

 

わたしに栄光なんていらない。

 

ずっとしんじてた。

きっとわたしのなかの何かを変えてくれる出会いがあるって。

 

 

 

出会いはいつ訪れるかわからない。

あしたかもしれないし、10年後かもしれない。

 

いまこちらへむかってくる10メートル先のあのひとなのかもしれない。

 

 

もしも、さっきわたしのよこを足早にとおりすぎたあのひとだったとしたら。

 

 

 

 

ビニール袋からてさぐりでとりだした。

冷えきったこころにまだあたたかったそいつをあたえる。

 

 

かえったようだった。

 

がむしゃらだったあの頃に。

 

 

 

 

右手に持ったときめく存在とともにこの夜をあるいていく。

 

 

 

まだこのときにはしるはずもなかった。これから自分の身になにかがおこるということを。

 

 

 

 

 

 

じぶんだけの城まであともうすこしだ。

傘を持ち直す。

 

 

そのときだった。

うしろになにか体温をかんじた。

 

風かな? そうおもった瞬間。

 

いっきに予想をくつがえす決定的うごきがあった。

 

ガシッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズボンをつかまれていた。

 

だれかがわたしのズボンをしたにひっぱっていた。

 

 

ただたんに重力に逆らっていた人間ではなかった。

 

ずいぶんと勢いはあるくせに、なかなか脱がすことができない、手先の不器用な人間のしわざだった。

 

 

 

 

 

 

ガシッ。

 

つぎの瞬間にあじわうことになったこの感触を一生わすれない。

 

揉んだのだ。

なんなのだ。

 

 

 

 

 

なんの怒りがこみあげてこなかったわたしがつぎにとった行動とはなんだっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは右手にもっていたものを差し出した。

 

きっと10秒後には手をとりあってふたりなかよくベンチに座り話し込んでいるのだ。

 

 

だが人間はいともかんたんにうらぎられる生き物だ。

 

タオルを顔中に巻きつけていた手先の不器用な男はわたしにほんのすこしのカケラもみせずに走り去っていった。

全力疾走ということばがよく似合う。

 

 

 

 

深い夜にとりのこされたわたし。

 

裏切ったのはあいつだ

なんのわるぎもなしに。

 

 

ここでしばらく考える。

正解にかぎりなくちかい憶測である。

 

さっきセブンイレブンで買ったこのジューシー溢れる唐揚げ棒が勇者のもつ剣にみえたのであろう。

 

まちがいなくRPGの真っ最中であるわたしだ。

そうにちがいない。

 

 

この尖った剣をおもいだしていまごろ部屋の片隅で泣いているのかもしれない。

 

だとしたら手先が不器用で可愛い人間だっただけなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

出会いっていつくるかわからない。

ふいに思い出したように突拍子もなくやってくる。

 

きょうだってなんの打ち合わせもしていなかったではないか。

でもこれでよかったんだ。

 

なにげなくとびだした城から想像もしていなかった

 

 

 

 

たった1度きりのキセキの出会い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城に「ただいま」というこえが残る。

 

わたしは記憶にのこる刺激的なきょうという日を目次からめくってみたくなった。

 

さきほどテーブルにほおりだしたビニール袋を掴みとる。

 

 

 

夢中になっていてきづかないことも人生にはたくさんある。

 

いつのまにかまただれかを傷つけてしまっていることだって。

 

 

現在から時間を巻き戻せないようにしたのは、いまこの瞬間こそがレアであるということにきづいてほしかったからなのだろうか。

 

 

 

 

 

まったくきづかなかった。

 

 

 

いちばんちかくで見守ってくれていたその存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溶けていたんだ。

 

 

ビニール袋からとりだした生チョコアイス。

 

ともに夜を駆け抜けたもうひとつのトキメク存在。

まもれなくてごめんな。

 

 

 

 

 

 

 

あ、これにしとけばよかったな。❤︎

 

 

 

 

「あのときこれをあげていれば手先が不器用で可愛い人間となかよくなれたのに」3年経ったいま、確信している。